「働き方、良くなってきた」って、いったい誰の実感なんでしょう?

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「最近、ずいぶん働きやすくなってきましたよね」。管理職からそう声をかけられて、内心で「うーん、そうかなあ」と首をかしげてしまった——そんな経験、ありませんか。ぼく自身、現場にいたころに何度もありました。悪気があって言っているわけではない。でも、自分の実感とはどこかズレている。その小さな違和感を、うまく言葉にできないまま飲み込んできた方も多いんじゃないでしょうか。

先日、その違和感をそのまま数字にしたような調査結果を目にしました。東京都教育委員会が、都内の公立学校の全教員を対象におこなった働き方に関する意識調査です。「以前と比べて働き方が改善している」と答えた教員は、全体では55.0%。半分を超えていて、一見すると「まあ、進んでいるのかな」と思える数字です。ところが職層で分けてみると、景色がガラッと変わります。校長では84.4%が「良くなった」と感じている一方で、主任教諭は50.2%にとどまった。同じ職場で、同じ「改革」を見ているはずなのに、上と現場でこれだけ実感がちがうんです。

なぜ、上と現場でこんなに実感がちがうのか

この差は、どちらかが嘘をついている、という話ではないと思います。見えている景色がちがうんです。

管理職の側から見ると、改革の成果はわりと目に見えやすい。職員会議が減った、提出文書が簡素になった、退勤時刻の記録がつくようになった。こういう「仕組みの変化」は、それを進めた立場からすれば、たしかな前進として実感できます。

でも、担任をしている教員の一日は、そう単純じゃない。会議が一つ減っても、空いた時間には別の対応がすっと入ってくる。保護者からの連絡、気になる子への声かけ、明日の授業の準備。同じ調査で、「授業準備の時間が取れている」と感じている教員はわずか35.7%だったそうです。改革でつくり出したはずの時間が、現場に届くころには別の何かで埋まっている。成果が上から下へ流れていく途中で、しみ込んで消えてしまう感じ、と言えばいいでしょうか。

ぼくが委員長だった頃に感じた、あの”ズレ”

執行委員長をしていたころ、市教委との交渉の場でこんなことがありました。長時間労働の改善を求めたぼくたちに対して、市教委の側は「こんなとりくみもやっている」「校長にもきちんと言っている」と、いくつもの施策を並べて説明してくれる。たしかに、資料の上では手が打たれている。話を聞いているだけだと、「ずいぶんやってくれているんだな」とさえ思えてくるんです。

ところが、職場に持ち帰って組合員に聞いてみると、返ってくるのは別の声でした。「そんな話、現場までおりてきていない」「校長に言われたって、結局やることは減っていない」。市教委は「やっている」と言い、現場は「実感がない」と言う。同じ改革の話をしているはずなのに、交渉のテーブルの上と職員室とで、こんなにも景色がちがうのか——あのときの居心地の悪いズレを、今回の調査結果を見て久しぶりに思い出しました。

大事なのは、この「ズレ」を、個人の愚痴で終わらせないことだと思うんです。一人ひとりが職員室でぼやいているだけなら、それはただの空気で消えてしまう。でも、その声が集まって「これは職場全体の課題だ」と可視化されたとき、はじめて動かせるものになる。

「2つの働き方改革」があるんじゃないか

ぼくは、働き方改革には2つの種類があるんじゃないかと思っています。

ひとつは、「数字の改革」。制度をつくり、記録を取り、目標値を掲げていく改革です。これはこれで大切で、上の立場だからこそ進められるものです。

もうひとつは、「実感の改革」。現場の一人ひとりが「たしかに前より働きやすくなった」と心から思える改革。こちらは、数字を追うだけでは絶対にたどり着けません。

いまの学校で起きているのは、この2つのあいだに大きな溝がある状態です。数字の改革は進んでいる。でも実感の改革が追いついていない。校長84.4%と主任教諭50.2%という差は、まさにその溝の深さを示しているように見えます。

この温度差を埋められるのは、たぶん組合だけ

では、この溝を埋められるのは誰でしょうか。

管理職でしょうか。でも管理職は、そもそも「良くなった」と感じている側です。教育委員会でしょうか。彼らが見ているのも、多くは数字のほうです。

現場の実感の側に立って、その声を束ね、「これは個人の問題じゃなく職場の課題だ」と翻訳して届けられる存在。それはやっぱり、組合なんじゃないかと思うんです。

組合というと、賃金交渉のようなかたい話を思い浮かべる方もいるかもしれません。でも本当の役割は、もっと日常的なところにあります。職員室でぼやかれて消えていくはずだった小さな違和感を拾い上げて、「みんなそう感じてるよね」と可視化すること。数字と実感のあいだにある溝を、現場の側から埋めていくこと。今回のような調査結果は、その溝を見せてくれる、またとない材料です。

「働き方、良くなってきましたよね」という言葉に、心からうなずける職員室を増やしたい。そのためにできることを、現場の声を集めるところから、一緒に始めてみませんか。組合にしかできない仕事が、ここにあると思うんです。